相続させたくない相続人がいる場合は?生前の相続放棄のポイントを専門家が解説します「司法書士・進藤 亜由子先生のトラブル回避ガイド」

掲載日:2023年03月20日 カテゴリー:資産相続
ここに親孝行者の長男と、そうとは言えない次男がいたとします。(母は既に死亡していると仮定)
ある日、父親は次男を呼び出しこんな会話をしました。

ある日、父親は次男を呼び出しこんな会話をしました

ある日、父親は次男を呼び出しこんな会話をしました
父「私の死後、財産は全て世話になった長男に相続をさせたいと思っている。次男である君には相続放棄をしてほしい。」
次男「分かりました、父さん!僕は藤さんの遺産はいらないよ。兄さんに全部あげるよ。」
父「安心したよ!!それでは、念のために念書を書いてもらえるかな?」
次男「分かったよ、父さん。念書を書くよ!」

早速、次男は念書を書きました。
相続させたくない相続人がいる場合は?生前の相続放棄のポイントを専門家が解説します「司法書士・進藤 亜由子先生のトラブル回避ガイド」(2)

『念書 父××の一切財産を相続放棄します。令和5年1月1日 ●●●●(次男)㊞』


この念書を受け取った父は長男に事の経緯を伝えて引き渡し、これで長男が全ての財産を引き継ぐものと信じていました。
念書を受け取った長男は父親に気持ちに応えるように、最期まで父の世話を一身に引受けました。
一方、弟は、父親のことは兄に任せ自由きままな生活を送っていました。
相続させたくない相続人がいる場合は?生前の相続放棄のポイントを専門家が解説します「司法書士・進藤 亜由子先生のトラブル回避ガイド」(3)
さて月日は経過し、父が亡くなりました。

長男「弟よ、あの日書いた念書がここにある。相続登記をする場合はこの遺産分割協議書の提出が日知用みたいだ!俺に全部相続させると書いてあるからこれに署名・捺印してくれ。」
次男「兄さん、それは嫌だよ!気持ちが変わったんだ。人の気持ちなんて移りゆくものだからね。」
長男「まて弟よ、それはよくないぞ。そもそもここに念書があるではないか!!」
次男「・・・・・・。」

さて、無事に父の思いは実現し、全てを長男が相続できるでしょうか?
結論はタイトル通り、この念書は無効です。それでは解説を続けます。

生前にした相続放棄は無効

生前にした相続放棄は無効
長男「・・・・・・。」
次男「兄さん、相続放棄は生前にできないんだよ。だから兄さんが持っている念書は意味がないんだ。」
長男「話が違うではないか!!」
次男「権利は平等。半分は僕の分だよ。」

こうなると殆どの場合、当人同士での解決が望めず専門家に相談に行くというパターンになります。
弟が主張するように、相続放棄は被相続人の生前にはすることができません。相続放棄の手続きは、被相続人が亡くなって相続が開始してから家庭裁判所に対して申立が必要です。なので、兄はこの念書をもって自分が全て相続するという主張をすることはできません。

では、父は生前にどんな対策をしていれば長男が全て相続することができたのでしょうか?

遺言書や遺留分の放棄

長男に全て財産を相続させるには、こんな方法があります。
①「全財産を長男に相続させる」旨の遺言書を書く
② 次男に遺留分の放棄の手続きをしてもらう

①「全財産を長男に相続させる」旨の遺言書を書く


まず、「全てを長男に相続させる」旨の遺言書を作成します。
この際、後々のトラブルを防ぐためにも公正証書遺言での作成がお勧めです。より万全にするためには、遺言執行者を司法書士などの第三者を定めておくことが望ましいです。
これで万事解決と思いますが、実はこの遺言書の作成だけでは十分ではありません。なぜなら、次男には「遺留分」という法律上の権利があるからです。

② 次男に遺留分の放棄の手続きをしてもらう


いくら「長男に全て相続させる」と遺言書を残していたとしても弟は遺留分という法律上の権利により、一定の割合で相続することができます。
そこで、次男が遺留分の放棄の申立を家庭裁判所に行って、裁判所の許可をもらっておく必要があります。
この遺留分の放棄は被相続人の生前にすることができるので、念書を書いてもらうのではなくこの手続きをしてもらっておけば、死後に揉めることはなかったですね。
ただし、遺留分の放棄は簡単には認められません。一部の相続人や被相続人に遺留分の放棄を強要されるようなことがあってはならないからです。裁判所が許可をするに値する正当な理由が必要です。

例えば、生前に自己の相続分に値する贈与を受けていた場合や、遺留分を侵害する内容の遺言書を作成する際にまとまった代償金を受け取った場合がそれにあたります。今回の場合、父親は次男と話しをした際に一定額の金銭を贈与して、その代わりに遺留分放棄の申立てをすることを願い出る、という方法がありました。

遺留分侵害額請求に備えておく

上記の方法で遺留分放棄を次男が行えば遺言書の通り長男が父の全財産を相続することになりますが、先述の通り遺留分放棄は裁判所が許可するに値する正当な理由が必要です。それに、このようなケースで次男が積極的に遺留分放棄の申立てを行うとは考え辛いことも事実です。
であれば、遺留分を侵害する遺言書を作成する際に、遺留分侵害額請求があることを見越して、その対応策を取っておくことも一つの方法です。

対応策の一つに、長男を受取人として生命保険に加入する、という方法があります。
死亡による生命保険金は生命保険金を受領する権利は受取人固有の権利なので、被相続人の遺産とはならず、原則として遺留分額の計算に含まれません。
よって、長男を受取人として生命保険に加入すると、その金額分の遺産額が減って、更に遺留分侵害額請求をされた際の支払いに対応する金銭を準備できる、という二重のメリットがあるのです。(例外として「相続人間の不公平が到底容認できない程著しいものと評価すべき特段の事情がある」と判断された場合には、遺留分の基礎となる財産に生命保険も含めて計算をするもの、とされています。)

今回のまとめ

相続放棄は被相続人の生前には出来ません。しかし、自身の相続財産について、誰にどうように遺すのか、その想いを実現するために取れる方法は他にもあります。
遺言書を作成する際も、どの方法で遺言書を遺すと良いのか、このままでは遺留分がいくらになるのか。事前に検討しておくべき事項は多数あります。
一人で抱えず、まずは相続の専門家にご相談されることをお勧めします。

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進藤 亜由子 氏

ふくおか司法書士法人 共同代表
1985年、福岡市西区出身。早稲田大学在学中の平成19年度最年少での司法書士試験合格から現在に至るまで司法書士業界一筋。
大手ディベロッパー会社の登記を一手に請け負う東京の司法書士事務所で不動産登記の経験を積み、地元の福岡に戻り、債務整理手続きに特化した司法書士法人で債務整理の経験を積んだ後、独立し伊都司法書士事務所を開設。開業当初より地銀や大手ハウスメーカーからの指定を受け多くの登記手続きを受任。更に債務整理事務所勤務の経験も活かし借金に悩む多くの方の借金問題を解決へと導く。
その後、ふくおか司法書士法人を立ち上げる。他の事務所で断られた複雑な案件を解決し続け、その実績をコラムで紹介。記事を見て全国から相談者が集まる。現在は、相続・遺言手続きセンター福岡支部を運営。事務所内に相続に特化した専門チームを作り、相続に強い司法書士として日々多くの相談に応じている。

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