夫と死別、お腹の赤ちゃんはどうなる?相続人になれる!?胎児がいる場合の相続を解説

掲載日:2023年10月27日 カテゴリー:資産相続

胎児は相続人になれる?

まず、民法3条第1項には「私権の享有は、出生に始まる。」と定められています。

人は出生して初めて権利能力を得ます。
また、相続では被相続人が死亡した場合に相続人は存在してなければならいという「同時存在の原則」があります。
それらをみると『胎児は相続人にはなれない』ということになりそうです。
しかしそうなると、他に子がいる場合には、出生が少し遅かったとう理由で他の子との間で不公平が生じますし、他に子がいない場合には被相続人の両親や兄弟姉妹が相続人とになり、これから生まれてくる子にとっても、これから母になる配偶者にとっても不利益になります。

そこで、民法866条第1項では「胎児は、相続については、既に生まれたものとみなす。」と定めれており、相続と遺贈に限っては胎児は生まれたものとみなして権利能力を有します。そのため、胎児も相続人になれます。

胎児は不動産の登記名義人になれるの?

胎児が相続人になれるとして、胎児は不動産の登記名義人になれるのでしょうか?

まず、不動産の登記名義人になれる人は決まっています。誰でもいつでもなれるというわけではありません。
登記名義人になれる人は実体法上、権利能力を有する者のみです。
実体法上、権利能力を有する者とは「自然人」と「法人」のことです。ざっくりいうと「自然人」=人、「法人」=会社です。

え?だいたい、どっちかじゃない?と思うのですが、
例えば「会社」・・・
設立登記前の会社はまだ法人格を有おらず正式は法人ではないので、不動産の登記名義人にはなれません。設立登記後に、不動産登記名義人になることができます。
他にも権利能力亡き社団・財団と言われる町内会やボランティア団体などについても不動産の登記名義人となることはできません。
人も法人も、生まれる(設立登記)前は『×』、生まれた(設立登記)後は『〇』というイメージです。

この流れでいくと胎児は生まれる前なので登記名義人になれなさそうですが、
先にみたように「胎児は、相続については、既に生まれたものとみなす。」と定めれておりますので、相続登記や遺贈の登記に限っては胎児も不動産の登記名義人になれます。よって、胎児を名義人として不動産を購入したり、胎児に贈与するような登記は出来ません。

では、いつから生まれたものとみなされて胎児名義で登記ができるのでしょうか?

いつから胎児名義で登記できる?

いつから胎児名義で登記できる?
生まれたものとみなされて、胎児名義で登記できるタイミングには2つの説があります。

不動産登記では、『説②:解除条件説』をとっており、
相続開始時点で胎児名義で登記ができる取扱いになっています。

この胎児の表記方法が、令和5年4月1日より法改正により変更になっています。

【 事例 ⑴ 】

【 事例 ⑴ 】
父、母、胎児

父 名義の不動産がありましたが、令和5年4月1日に父が亡くなりました。
相続開始です。
『説②:解除条件説』でいくと、この相続開始時点で胎児名義の不動産登記が可能です。
こんな感じで登記されます。

●原因:令和5年4月1日相続
●相続人:持分2分の1 母 / 持分2分の1 何某(母の氏名)胎児

ちなみに、まだ戸籍にも記載されていない胎児の存在をどうやって証明するのだろ?と疑問に感じますが、胎児名義での相続登記の申請にあっては胎児の存在を示す添付書類は必要なく、医師や助産婦が作成した診断書なども不要とされています。
登記官に胎児の存否に関する実質的な審査権がないからだそうです。登記申請を代理で行う司法書士としては、どこまで確認義務があるのかは検討事項ですが、母子手帳を確認させて頂くことになるかと思います。

【 事例 ⑵ 】

その後胎児が6月6日に、無事に生まれました。その後の登記は?
この場合、住所と氏名変更登記をします。

○番所有権登記名義人住所、氏名変更
●原因:令和5年6月6日出生
共有者 何某(母の氏名) 胎児の氏名 住所
福岡市○区○○町番 何某(胎児の名前)

万が一死産となった場合には、錯誤を原因として更正登記をします。

胎児の遺産分割協議について

胎児が生まれたものとみなされるのは、あくまで「相続・遺贈のとき」です。
なので、胎児に代わって遺産分割協議をして、その結果をもとに不動産登記をするということはできません。

まとめ

令和5年4月1日から施行された不動産登記法の改正はいくつかあります。

その中でも「目立ちにくい改正だなあ」と思ったのが、胎児の表示が『 亡父の氏名 母の氏名 胎児 』から『 母の氏名 胎児 』となったことです。
そこで、改めて胎児は相続人として不動産の名義人になれるの?ということを考えてみました。

胎児がいる場合に相続が発生した場合、出産・育児の負担も重なりますし、通常の相続手続きに比べて困難になることが予想されます。
また、『胎児も相続人になれる』ということを知らないと、胎児以外の相続人で相続手続きを進めてしまう可能性もあります。
胎児の権利を守るためにも、胎児がいる場合の相続手続きなど専門家を交えながらしっかりと話し合うことが大切です。

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進藤 亜由子 氏

ふくおか司法書士法人 共同代表
1985年、福岡市西区出身。早稲田大学在学中の平成19年度最年少での司法書士試験合格から現在に至るまで司法書士業界一筋。
大手ディベロッパー会社の登記を一手に請け負う東京の司法書士事務所で不動産登記の経験を積み、地元の福岡に戻り、債務整理手続きに特化した司法書士法人で債務整理の経験を積んだ後、独立し伊都司法書士事務所を開設。開業当初より地銀や大手ハウスメーカーからの指定を受け多くの登記手続きを受任。更に債務整理事務所勤務の経験も活かし借金に悩む多くの方の借金問題を解決へと導く。
その後、ふくおか司法書士法人を立ち上げる。他の事務所で断られた複雑な案件を解決し続け、その実績をコラムで紹介。記事を見て全国から相談者が集まる。現在は、相続・遺言手続きセンター福岡支部を運営。事務所内に相続に特化した専門チームを作り、相続に強い司法書士として日々多くの相談に応じている。

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