「不動産権利証」の取り扱いについて知っておきたいポイントを解説

掲載日:2024年01月04日 カテゴリー:資産相続

被相続人の「不動産権利証」どう扱えばいい?

人間は生まれながらにして法律上の権利・義務の主体となることができる資格があり、生まれてから亡くなるまで様々な権利を取得することができます。その様々な権利の中の一つに『不動産』があります。
不動産を売買や相続、贈与などで取得すると"権利者"として登記され、『権利証(現在は登記識別情報)』が発行されます。
この『権利証(登記識別情報)』は、売買や贈与で不動産を手放すときや、抵当権・地上権を設定するときに必要になります。
抵当権・地上権を設定するとき『権利証(現在は登記識別情報)』としての効力はそのままですが、不動産を手放すとき無事登記が完了すると権利のないただの紙切れになるのです。
では、不動産の権利を持っている人が亡くなったらどうなるのでしょうか?

不動産所有者が亡くなった場合、『権利証(登記識別情報)』は無効になる!?

冒頭にも書きましたが、民法上「権利能力」が認められるのは "人が生まれてから亡くなるまで" の期間です。
つまり、亡くなってしまうと権利能力は失われ、その不動産の所有者ではなくなります。所有者ではなくなるので『権利証』も無効となります。
では『権利証』が無効になったからといって、早々に処分していいものでしょうか?

不動産所有者が亡くなった場合の不動産登記

不動産所有者が亡くなると、相続登記※をします。
※現時点では相続登記は義務ではありませんが令和6年4月1日より相続登記が義務化されます。

一般的に不動産の所有権を移転するときは権利を失う人の『権利証(登記識別情報)』の提出が必要です。
しかし、不動産の所有者が亡くなった場合の相続登記手続きでは、原則、亡くなった人の『権利証(登記識別情報)』の提出は不要なのです。

不動産登記の申請人

不動産登記の申請人
例えば、売買で不動産の所有権移転をする場合、登記申請の権利者と義務者はこのようになります。
何となくイメージできると思うのですが、「売主は不動産の所有権を渡す義務がある。」「買主は不動産の所有権をもらう権利がある。」という感じで、"権利者"と"義務者"となります。権利を失うからには、厳格な本人確認と意思確認が必要です。それを証明するために義務者は所有権移転登記の際、『権利証(登記識別情報)』を提出するのです。単なる住所の変更などの申請と違い“権利に関する登記の申請”は、その正確性を確保するために共同申請が原則になります。
したがって、例外的に“単独申請でいいですよ”と定められている登記以外、登記権利者と登記義務者が共同して行わなければなりません。その例外的単独申請の代表が『相続登記』です。
相続は、人が亡くなったことにより当然に発生するもので義務が発生するということではないからです。
そうなるとどうでしょうか?義務者ではないので、相続登記の際は亡くなった人の『権利証(登記識別情報)』の提出は不要なのです。
では、先ほどの早々に処分していいものでしょうか?という質問の答えが「YES」な気がしますが、この答えはもう少しお待ち下さい。

『権利証(登記識別情報)』の提出が必要となる場合がある

亡くなった人の不動産の所有権移転登記をするときでも『権利証(登記識別情報)』の提出が必要となる場合があります。

①「遺贈」の登記申請をする場合
 遺言書で、ある不動産を相続人や相続人ではない第三者に不動産を遺贈すると記した場合、相手が相続人であっても「相続」ではなく、
 「遺贈」による所有権移転登記をします。この「遺贈」の登記は『相続登記』と何が違うのでしょうか?「相続」とは人が亡くなった
 ことにより当然に発生するものです。
 しかし、この「遺贈」は当然に発生するものでははく、亡くなった人が生前に遺言という行為をしたことにより発生するものです。
 この行為の結果、義務者として登記申請に関与する必要があります。義務者としてということは、権利を失うので『権利証(登記識別情報)』の
 提供をするのです。なお、「遺贈」のポイントは「相続人ではない第三者でも可能」という点です。 


② 亡くなった人の住所が繋がらない場合
 例えば、亡ふくおか花子の登記されている住所が福岡県になっていたとします。しかし、ふくおか花子は生前に引っ越しをしており、
 亡くなる前最後の住所が佐賀県になってました。この場合、ふくおか花子が 福岡県 ⇒ 佐賀県 に住所を移転している経緯が繋がる証明書の
 提出が必要です。登記簿には住所と名前しか載らないので、「福岡県のふくおか花子」と「佐賀県のふくおか花子」が同一人物であることの
 証明は戸籍の提出では出来ず、住所の繋がりをもってしか証明できないからです。
 通常、佐賀県で住民票の除票を取得して「前住所」に福岡県の住所が載っていれば住所が繋がったことになるので問題はありません。
 しかし、亡くなったのがかなり前で住民票の除票が取得できない場合等は「福岡県のふくおか花子さん」と「佐賀県のふくおか花子さん」は
 本当に同一人物なの?という問題が出てきます。
 ちなみに、令和元年6月20日に住民基本台帳法の一部が改正され、現在は150年間保存されることになっている住民票の除票及び戸籍の
 附票ですが、それ以前の保存期間はたった5年間だったので、実務上「住所が繋がらない!!」ってことを相当数あるのです。この場合に、
 その救済措置として求められるのが『権利証(登記識別情報)』なのです。『権利証(登記識別情報)』は紛失しても再発行はできません。
 要は、世界に一つしかない唯一無二の存在なのです。なので、住民票で繋がりは証明できなかったけど唯一無二の『権利証(登記識別情報)』を
 持ってます!だから「福岡県のふくおか花子」と「佐賀県のふくおか花子」は同一人物である可能性が極めて高いでしょう!?ということに
 なるのです。

まとめ

不動産の所有者が亡くなった場合でも「遺贈の登記をする場合」や「住所が繋がらない場合」に『権利証 (登記識別情報)』が必要です。なので、少なくともその不動産の所有権移転登記が完了するまでは大切に保管されておいてください。
また、ご遺族の中には想い出として大切に権利証を保管されている方もいらっしゃいます。その場合、想い出として保管される権利証と、権利があるものとして保管される権利証は混ざってしまわないようにきちんと分けて保管されることをお勧めします。

Written by..

進藤 亜由子 氏

ふくおか司法書士法人 共同代表
1985年、福岡市西区出身。早稲田大学在学中の平成19年度最年少での司法書士試験合格から現在に至るまで司法書士業界一筋。
大手ディベロッパー会社の登記を一手に請け負う東京の司法書士事務所で不動産登記の経験を積み、地元の福岡に戻り、債務整理手続きに特化した司法書士法人で債務整理の経験を積んだ後、独立し伊都司法書士事務所を開設。開業当初より地銀や大手ハウスメーカーからの指定を受け多くの登記手続きを受任。更に債務整理事務所勤務の経験も活かし借金に悩む多くの方の借金問題を解決へと導く。
その後、ふくおか司法書士法人を立ち上げる。他の事務所で断られた複雑な案件を解決し続け、その実績をコラムで紹介。記事を見て全国から相談者が集まる。現在は、相続・遺言手続きセンター福岡支部を運営。事務所内に相続に特化した専門チームを作り、相続に強い司法書士として日々多くの相談に応じている。

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